■ 考える喜びと作曲(2021年6月30日) ■


近頃は以前とは比較にならないほど便利な世の中になりましたが、一方テレビやスマートフォンをお持ちの方は、どちらも持っていない私のような者よりも「自分の脳で考える」時間や機会がもしかすると少ないのではないでしょうか?

ある日駅前に背中が丸く曲がった相当高齢なおばあちゃんが座っているように見えたのですが、近づいてみると実はスマートフォンを見ている中学生だったりすると、テクノロジーの進化が人類にもたらす影響について考えさせられてしまいます。

一方テレビやスマートフォンを持たない私は、ただひたすら「どうすれば世界中の皆様にお届けする演奏の価値を少しでも高め続けることが出来るか」(伊藤光湖の演奏録音の有料デジタル配信をご利用下さっているのは海外の方が多い)を目標に毎日身体と脳のトレーニングに時間を費やしてきたお蔭で、火災前よりも心身共に健康かつ丈夫になることが出来ました。これもこれまで応援して下さった皆様のお蔭です。心より感謝申し上げます。

音楽に関して言えば、あくまで一般論ではありますが、演奏を専門になさっている方であれば普通幼少の頃から素晴らしい先生に音楽教育を受けられて、教わった通りに演奏出来るようになって演奏家になられた方がほとんどなのではないかと思います。

braided tree ところがそのようには育たなかった場合、すなわち高校3年生の進路指導の時に突然音楽の道に進もうと思い立ち、そこで生まれて初めて数ヶ月間だけピアノとソルフェージュを習ったような者は、どの先生にとっても「手遅れ」というか「手の施しようがない、どう教えていいかわからない(極端な話、教えても無駄な)生徒」としてしか扱われなかったため(これは決して「手抜き指導」をされたという意味ではありません。ただ、「編み込みの木」を育てるのに、既に大きくなった木をどう編み込んだらいいのか分かる先生がいなかっただけです。)、結局私は「自分で試行錯誤しながら学ぶ」しかなかったのであります。

(ちなみになぜヴァイオリンで音楽大学を受けようと思ったかと申しますと、「高校3年生の進路指導の時、我が家に子供用の小さな分数ヴァイオリンがあったから」です。当時私は札付きの落ちこぼれで、「世捨て人」をしておりました。)

しかし音楽教育を受けずに育ったお蔭で、まるで目的地に向かう方向を180度逆に向かって出発し遠回りしたことにより、地球1周のごとく一般的な方が決して通ることのない北極や赤道のようなところを体験してきたかのような「レイト・スターター(遅く始めた者)の特権」を与えられて参りました。

例えば、京都市立芸術大学での初めてのオーケストラの授業で、他の生徒さんは全員普通に演奏出来ているのに私一人だけがほぼ1音も出すことが出来ずに(楽譜が読めなかったのです)、はじめから終わりまで石像のように動けず固まったまま終わった、などの想像を絶する苦難と屈辱のエピソードには事欠きません。

(私は個人的に、この「遠回り」「個性を作り上げる大きな祝福・恵」だと考えて素直に感謝致しております。「苦労は買ってでもせよ」ということわざ通りです。)

まさにそのような生い立ちのお蔭で、今でも「自分の頭で考え、改善を続ける」喜びや楽しみを満喫致しております。実際に、2021年に入ってから立て続けにあった「新しい発見」による奏法変更などの「基礎解体工事的奏法改善」もかなり定着し、以前よりも安定と自由を手に入れたと感じております。7つのヴァイオリン協奏曲を試金石として新しい手の使い方を磨いて参りましたが、その手の使い方にふさわしい、かつより音楽的に適したフィンガリング(指使い)やボウイング(弓使い)を100個ほど見つけては「脳の上書き」を致しております。これらは毎日ただ受動的に繰り返すだけの単調な練習とは異なる「考える喜び」であります。

また、今年の4月末あたりから作曲活動を再開し、昨日「アネクドット(小さなお話)第10番」を完成することが出来ました。2017年1月以来約4年半ぶりの作曲で、書き始めた頃は1日1音だけ書いたという日もありました。それでも「毎日」1音でもいいから書くというのを続けているうちに、ある演奏のお話しをいただき、それが「祝賀記念式典」だったので「50周年おめでとうございます!」と思っていたら、いきなりその日のうちに2分30秒の曲が出来てしまいました。従って正式にはその式典で演奏する「祝賀曲」がアネクドット第10番を追い越して、火災後作曲第1号となりました。

この『「おめでとうございます!」と思っていたらほんの数時間で1曲出来上がった 』ことにより、改めて「音楽は世界共通の言語であり、感情表現そのものである」と思います。

さて、皆様にとっての「考える喜び」は何でしょうか? 最近見た美しいもの、感動した音楽、楽しい出来事、素敵な香り・・・それらを思い出して再び味わうだけでも、脳が活性化して身体に良い変化が現れるかもしれません。

当初「火災後作曲第1号」になるはずだった「アネクドット(小さなお話)第10番」のサブタイトルは ” Love(愛)” です。俗に言う「この世の愛」ではなく、真実の愛である以下の聖句を音にしたものです。

『 愛は寛容であり、愛は親切です。また人をねたみません。愛は自慢せず、高慢になりません。礼儀に反することをせず、自分の利益を求めず、怒らず、人のした悪を思わず、不正を喜ばずに真理を喜びます。すべてをがまんし、すべてを信じ、すべてを期待し、すべてを耐え忍びます。愛は決して絶えることがありません。』
(コリント人への手紙第一・13章より)

music and roses 本日美しい薔薇のブーケを携えて両親の灰が眠るところの除草に行ったら、驚異的な生命力でスギナが元気いっぱいに茂っておりました。昨日完成したばかりの「アネクドット(小さなお話)第10番」を、溢れんばかりのを持って私を育ててくれた両親に、薔薇と一緒に捧げて参りました。実家の土地もグリーン・パラダイス状態ですが、今年は「カバープランツ作戦(=背が高く伸びる草を除去し、横に広がる草だけを敢えて残して地面を塞ぐ方法)」で様子を見ております。実家の除草作業も、日々の鍛錬の成果を試す最高のアウトドア・レクリエーションです。豊かな自然に目を向けると私達の周りには素敵なものがたくさんあることがわかります。全人類が上記のような真実のに満たされて、争いがなくなり、全世界が平和になりますように。

Nature is beautiful. 自然は美しい
Life is so beautiful. 命(人生)は極めて美しい


伊藤光湖


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