■ いつ誰にでも起こり得る「一酸化炭素中毒」というもの
(2018年1月4日) ■


皆様「一酸化炭素中毒」という名前は聞いたことがあるけれど、その 詳しい内容についてはほとんどご存じない、という方が多いのでは ないでしょうか。

という私も、自分が火災後入院し、退院するまでこの「一酸化炭素中毒」 というものに関する知識は全くありませんでした。ですから入院中に自分の 身に起った様々な「不思議体験」が何だったのかを理解したのは、ずっと後に なってからのことでした。(それ以前に、入院当初は意識があったので、 自分が重度の一酸化炭素中毒であったことさえ、全く知りませんでした。)

「一酸化炭素中毒」は次のようにして起こります。一酸化炭素は赤血球の中の酸素運搬に使われるヘモグロビンと親和性が極めて高く、酸素より約250倍もヘモグロビンと結合しやすい上に、いったん結びつくと今度は離れないことから、全身組織への酸素供給を著しく減少させ、組織の酸素欠乏を引き起します。 特に脳は真っ先にダメージを受けやすく、脳に障害が起きると後遺症が残る場合があります。

一酸化炭素は常温・常圧で無色・無臭でその存在には非常に気付きにくい ものですが、酸素の供給が不充分な環境で燃焼(すなわち不完全燃焼)が起こると発生します。「一酸化炭素中毒に注意しましょう」のページにあるように、火災だけでなく、締め切った環境で換気をせずに石油ストーブ、薪、炭そして 古い型のガス湯沸かし器などの使用を続けると、一酸化炭素が発生して大変危険です。

また雪が多い地方では、大雪で車のマフラーが塞がっているのに気づかず、車内に一酸化炭素が充満し中毒で死亡するケースや、ボイラーがすぐ近くにある古い湯沸かし器の追い炊き機能を使いながら入浴していて一酸化炭素中毒になったケースもあります。このように一酸化炭素中毒は、日本における中毒死の約6割を占めるそうです。(私の両親の死因も、火災による一酸化炭素中毒でした。)

普段の日常生活の中で「一酸化炭素には色も臭いもないため、発生しても気がつきません。締め切った部屋で不完全燃焼が続くと、いつのまにか一酸化炭素がたまり、最悪の場合、死に至ることもあります。」という事態を防ぐ方法は、とにかくこまめに換気を 行うことです。「暖房器具の使用中に気分が悪くなったら、まず換気」です!

私は火災現場から高度救命救急センターの集中治療室に入院して数日たった頃、 「リハビリ」ということで「ベッドの縁に支えなしで座る」ということを行おうとしたとき、当初平衡感覚が働かず、支えなしに座っていることさえ出来ませんでした。その数日後、立ち上がろうとしても全く立てず、身体を抱え上げて立たせてもらっても、やはり平衡感覚が働かず数秒たりともそのまま立っていることが出来ず、歩こうとしても脚の動かし方がわからなくて全く歩けず、といった状態でした。これらは結局、一酸化炭素による脳のダメージが原因だったのだと思います。

そして最もわけがわからなく不気味だったのは、何と言っても人生初の「不随意運動」でした。様々なチューブが身体から外されて自由になったのは良かったのですが、集中治療室から救命救急病棟に移った頃から一晩中わけのわからない「勝手な動き」(しかも極めて奇妙な動き)が現れて、気道確保の管の抜管後は手をベッドに縛り付けられなくなったため、恐らく15分に一度くらいのペースで「変な動きで激しく踊りながら目を覚ます」(毎回必ず同じ動きでした)という、おぞましく気味の悪い日々を過ごしました。

これらの症状は、一酸化炭素中毒後遺症のほんの一部です。その後徐々にこの「不随意運動」は収まっていき、平衡感覚も戻ってきて、立ったり歩いたり出来るようになりました。現在日常生活動作も一人で出来ております。

いろいろな方から「よくなってますか?」とご質問を いただいておりますが、火傷などの「怪我」(嗄声以外)は順調に回復してきたと思います。ただ この「一酸化炭素中毒の後遺症」については、正直よくわかりません。

退院後のある日、煙がトリガー(引き金)となって不随意運動が出たことが ありました。それが落ち着いた後で、その場に居合わせた方に一酸化 炭素中毒の後遺症についてお話し致しました。そして間歇型一酸化炭素中毒について「身体に入って しまった一酸化炭素によって時間がたってから起こる脳のダメージに より、いつ認知症になるかわからない」とお話しした時、その方は 二ヤーっと満面の笑みを浮かべて、こちらを見ておられました。

その後、その方のお宅に◯◯しに行かなきゃ、と言うと、今度は私の 不随意運動のものまねをしながら「うちに来てこんなんなったら困るじゃない」 と言って、声を出して笑っておられました。

「不随意運動」というのは文字通り、「意志に基づかない不合理な運動」 「意識とは無関係に異常運動が起る状態」ですから、他人からは滑稽に 見えるのかもしれませんが、それが起っている本人にとっては、好きで そのように動いているわけではありません。確かに私の場合は腕や脚が 激しく勝手に振り回されるような「異常な動き」ですから、不随意運動 が出ている真っ最中はかなりなスペクタクル(=見せ物)でありましょう。 しかし見た目のおかしさ?(私には全くおかしくありませんが)とは 対照的に、それが起きた後は非常に消耗し、酷く疲れ果ててしまいます。

一般的に「一酸化炭素中毒」というもの自体のご理解が非常に薄いのが 現状だと思います。私も「三池を抱きしめる女たち 〜戦後最大の炭鉱事故から50年〜」という動画などを見て、一酸化炭素中毒というものと、その患者の方々や ご家族のご苦労を思い知らされましたが、それらについての詳しい知識を お持ちの方は、本当に限られているのではないかと思います。

しかしながら、この恐ろしい「一酸化炭素中毒」というものは、実は 皆様にとっても決して関係のないものではなく、案外身近なところに 潜む危険であることを是非ともご注意いただきたく、そして私のようにならないために一酸化炭素中毒事故を未然に防いでいただきたく、この記事を書きました。 特に1月・2月は一酸化炭素による事故が多発する時期だそうですので、 こまめな換気を心がけて、“サイレント・キラー”である一酸化炭素から身を守っていただきたいと思います。


伊藤光湖


火災全般へ


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